10ヶ月間、恋をしていた。

これはあるオタクの10ヶ月間の恋の話です。
 
これからお読みになる貴方はダンスカンパニー「DAZZLE」と言うチームをご存知だろうか。2022年で結成26年目、ダンス界では名を知らぬ人が居ないと言われる長谷川達也氏を主宰とするダンスカンパニーだ。
そんな彼らが、2022年3月27日まで、お台場ヴィーナスフォートで常設公演をやっていた。その名も「Venus of TOKYO」。イマーシブシアターと言う通常の演劇公演とは異なる公演形態をしており、客は「出演者を追い掛けながら物語を辿る」事ができると言う、ある種ゲーム性の高い演劇公演である。
私は、その作品内に登場するあるキャラクター(演者)に恋をしていた。

 

まずは経緯から話そう。
DAZZLEが作った過去作品の中に「0NE」と言う舞台作品がある。この作品は感染症をテーマとした作品で、
ある街で集団感染が起こった。原因・経路は不明。
そこに1人の医師が派遣され、原因解明に奔走する。
と言う内容である。その作中に、主役達とはまた別にキーマンとも呼べるキャラクターが居た。『情報屋』である。
この『情報屋』と言うキャラクターは、シックなブラックのベストとスラックス、首には赤いスカーフ。少々色香漂う雰囲気を持ちながらも性格は若干お調子者寄り、と言う紳士系ルックスのおとぼけ男性であった。
私はDVDでしかこの作品を知らないが、『情報屋』に一目惚れした。元々、その役を演じていた演者がメンバーの中でも「推し」と呼べる立ち位置になっていたのもある。きっと彼が演じる『情報屋』だったから一目惚れしたのだろう。…言うて、アイドルみたいなルックスではないのだが、私にとって彼は魅力的な男性だった。
 
「Venus of TOKYO」に話を戻そう。
「推し」である彼が演じたのは『写真家』と言うキャラクターだった。カッターシャツにサスペンダー付きのズボン、ブラックベレーに白いスカーフ。肩からは大きなカメラ。前述の『情報屋』と、近からずとも似た雰囲気を持つ見た目をしていた。
この公演は本来は2021年4月29日からスタート予定だったが、緊急事態宣言の煽りを受け、6月5日まで開業が延期した。その1ヶ月の間に、元々出す予定だったのかわからないが、キャスト・キャラクター写真が公式サイトに公開されたのだ。そこに写っていた姿を見て、私は動揺した。彼(写真家)は一体どういうキャラクターになるんだろう。どんな性格で、どんな仕草をする人なんだろう。
 
『情報屋』に一目惚れして、恋をしてから、ずっと思っている事があった。
叶うなら、彼に会いたい。「推し」が演じる『情報屋』の様なキャラクターに会いたい。
もっと言えば、それが舞台作品ではなく、イマーシブシアターで会えたら。
…そう上手くいくわけないのは、わかっているけど。そんなことを考えたのが、3年前のことだった。
 
初めての「推し」の出演日。
追い掛けるのにただただ必死だった。でも、心のどこかで感じていた。「私が会いたかった人が目の前にいるんじゃないだろうか」と。何度か通い続けて、確信に変わっていった。「私の会いたかった人が、この世に現れてしまった」と。元々「推し」である彼が演じるキャラクターを好きになるのに時間は掛からなかったが、それ以上に「私の会いたかった人」が目の前にいると言う現実が、私を躊躇なく恋に落とした。
 
「Venus of TOKYO」公演回数877回。内「推し」の出演回数242回。
私の参加回数82回。内「推し」を追い掛けていた回数延べ70回以上。
私にお金と時間がもっとあれば。この時ほどそれを感じたことはなかった。もっと「彼」の人生を追い掛けたかった。私が恋したその人の「1日」を、もっと感じていたかった。
 
でも、幸せな10ヶ月間だった。
幸せな恋をした10ヶ月間だった。
この10ヶ月間で「好き」を一度も伝えられなかったってことは、私は失恋したことになるのかな。まぁ、それでも良いかもしれない。いつかの時の為に、とっておこう。
 
次に巡り合う時も、遠慮なく恋に落としてください。
楽しみに待ってます。
ありがとう、さようなら。私の恋した人。