ワタクシ、接待役ではございません

「なんか食べます?」
一体どう言うつもりで聞いてるんだろう。率直に思った私はニコリともせず、その質問をしてきた男性に向かって「もう食べました」と淡白に返した。火曜日の夜の出来事である。
 
都内某所のライブレストランに足を運んだ私は、運良くステージ前…つまり最前列に該当する席を引き当てた。これから観るのは女性JAZZグループによるパフォーマンスだ。グループの中になんとなく見覚えあるアーティストの顔を見つけ、興味本位でやってきた。開場時間中、四人掛けのテーブルに一人座り、ワインの様な赤いブドウジュースと小洒落た明太子スパゲティに舌鼓を打つ。この後始まる上質なエンターテイメントに心躍らせながら過ごす時間はとても心地よかった。
 

食事を終え開演時間迫る頃、一人の男性が私の隣の席に案内された。相席テーブルなのだから仕方ないだろう。どうせ見知らぬ関係だ、構う必要もない…と思っていたが、何故かその男性は「こんばんは、◯◯さんの関係者の方ですか?」と声を掛けてきた。何を言われているのかわからない。正規料金払って最前列をゲットしておりますが、とは言えないので黙って首を傾げた。

「あぁ、違うんですね。僕、◯◯さんの紹介で来たもので。ここ初めてなんですよ」
そう言いながら料理のメニューを開く男性。「聞いてねぇんだわ…」と思いながらスマホに視線を落とした矢先、冒頭の「なんか食べます?」と声を掛けられた。今美味しいもん食べたばっかなんだわ。て言うか貴方とシェアとかしたくないから。そう言う思いを込めて「もう食べました」と返した。それきり始まるまで会話は無かった。まぁどうせその話した時点で開演1分前だったし、喋ることもないんだけど。
 
ライブは勿論、非の打ち所がない程に素晴らしかった。華やかさも力強さも穏やかさも全て兼ね備えたその圧巻のステージ。…ここについてはまた別途書きたいと思っている。
 
ライブ後、ステージの方を向いて座っていた私が飲み掛けだったブドウジュースのグラスを手に取ると、気の所為か背後から声を掛けたそうにしている空気を察した。いや酔っ払いの相手なんて勘弁ならねぇのよ。せっかく最高のステージを超最高の席で観られたのに、それをよもや知らぬ男性に潰されるなんて以ての外だ。私は渋々ブドウジュースを一気飲みし、さっさとその場を後にした。
 
…と言う愚痴。
私自身、あんまり広く交流したくない主義(色々あったから)なので、元からTwitterで繋がってるとかならまだしも、見ず知らずの、しかも男性に話しかけられるとか正直マジ無理なんですよね。て言うか女性は大体そうだったりしない?そんなことないのかな。明らかにオジサンだなって人に馴れ馴れしく話しかけられるの、嫌じゃない?相席相手が女性だと大体何の会話も無く静かなものなんだけど。お一人様って「仲良くする相手が居ない」んじゃなくて、「一人で居ることが楽しい」人が出来る超貴重なスキルだと思うのよ。「ソロ活女子」なんてドラマもやってましたので、女性はご納得いただける方が多いのではないかと思うんだけど、男性は何でか「お互い一人でしょ?仲良くしようよ」みたいなテンションの人多くてウンザリする。
 
隣の席に座ったら友達!って子供の頃だけの話であることは間違いない。確かに私、見た目より結構若く見られることが多いので、「一人で来てる若い女の子」に属性される…のは有難い様な気がしなくもないのだけど、だからと言って軽率に話し掛けてくると言うのは一体どういう了見なのだろう。一般企業の管理職やってる様な男性って勘違い男が多い気がする。会社で若い女性社員に優しくしてもらえることを自分のルックスのお陰だと思ってるとかさ。昔見かけた話だけど、企業向けセクハラ研修の講師の方が「鏡を見てください。貴方が若い女の子に優しくしてもらえるのは上司だから。それ以外ありえません」って話からスタートしたって言うの、未来永劫語り継いでいきたい話だよね。女性にニコニコしてもらえるのが当たり前だと思ってる中年男性、時々いる。(※幸い、遭遇率が低い)
 
あと、ぜひこれも語り継いでいきたいフレーズなので覚えておいてほしい。どこで聞いた話だったかは忘れてしまったのだけど、「男性は女性に対して『ちょっと好き』からスタートする。女性は男性に対して『ちょっと嫌い』からスタートする」って話があるのよ。心理と言うか、男女の恋愛における初手の考え方の違いについて述べているものなんだけど、これ、事実だと思うのね。名前も知らない、出会って1分の見知らぬ男性に「なんか食べます?」って聞かれて良い気がするのって「その人と最初から会う予定だった」って時に限るんだよなぁ〜。気持ち悪いんだよなそれ以外は〜。
 
つまり、私が貴方の「接待」をしてやる理由はないので、軽率に話し掛けてこないでください。
この話、終わり。